「生成AIを導入すれば、業務時間を80%削減できる」
このような言葉を目にする機会が増えました。しかし、AIツールを社員に配布するだけで、会社全体の仕事が突然80%減るわけではありません。
AIによる大幅な業務効率化を実現するためには、ツールの導入より先に、業務の流れを見直す必要があります。
AI導入が注目される背景
中小企業では、人手不足や採用難が深刻になっています。その一方で、会議資料の作成、メール対応、報告書、データ入力など、売上に直接結びつかない業務に多くの時間が使われています。
生成AIは、文章作成、要約、情報整理、分類、アイデア出しなどを短時間で行えます。さらに、他のシステムと連携すれば、情報の転記や通知まで自動化することも可能です。
世界ではAIの企業利用が広がっており、マッキンゼーの2025年調査では、回答企業の78%が少なくとも1つの業務領域でAIを利用していると回答しています。
問題の本質は「AIを使っていないこと」ではない
AIを導入しても仕事が減らない会社には、共通点があります。
それは、現在の非効率な業務をそのままAIに置き換えようとすることです。
例えば、誰も読んでいない報告書をAIに作らせても、作成時間は減りますが、不要な仕事自体は残ります。複雑な承認手続きの一部だけを自動化しても、業務全体のスピードはそれほど上がりません。
必要なのは、最初に業務を次の4つへ分けることです。
- やめる仕事
- 簡単にする仕事
- AIやシステムに任せる仕事
- 人が集中する仕事
AI導入とは、現在の仕事を速くする取り組みではありません。仕事そのものを再設計する取り組みです。
80%削減しやすい業務とは
80%という大幅な削減を狙いやすいのは、頻度が高く、手順が決まり、文章やデータを扱う業務です。
例えば、会議後の議事録作成に60分かかっている場合、AIによる文字起こし、要約、課題抽出を使い、人が12分で確認できれば、対象業務の作業時間は80%削減されます。
このほか、定型メール、提案書の初稿、求人原稿、顧客対応履歴の要約、社内FAQ、日報集計なども削減効果を出しやすい分野です。
実際に東北経済産業局が紹介する企業事例では、生成AIなどを活用した改善活動によって、対象となる運用工数を80%削減した例があります。
ただし、こうした数字は対象業務、導入前の状況、運用方法によって変わります。「AIを入れれば必ず80%削減できる」と考えるべきではありません。
中小企業が取り組むべき7つのステップ
第一に、社員が時間を取られている業務を洗い出します。感覚ではなく、業務名、回数、1回当たりの時間を記録します。
第二に、頻度と所要時間から削減効果を計算します。
第三に、機密性や誤回答の影響を確認し、AIに任せられる範囲を決めます。
第四に、1つの業務だけで試します。全社導入から始めてはいけません。
第五に、入力方法、確認項目、責任者を決め、誰が使っても同じ結果になる手順を作ります。
第六に、導入前後の時間、品質、修正回数を測定します。
第七に、効果が確認できた業務を他部署へ展開します。
経営コンサルタントとしての考察
AI導入の本当の目的は、人員削減ではありません。
社員が転記、検索、資料の体裁調整などに使っていた時間を、顧客対応、商品開発、人材育成、経営判断へ振り向けることです。
削減時間だけを目標にすると、社員はAIを「自分の仕事を奪う存在」と感じます。しかし、生み出した時間を何に使うかまで示せば、AIは社員の能力を引き出す道具になります。
経営者が決めるべきなのは、どのAIツールを契約するかだけではありません。
AIによって生まれた時間を、どの成長分野へ再投資するか。
ここまで決めて、初めてAI導入が経営戦略になります。
まとめ
AIで業務時間を80%削減するためには、全社の仕事を一度に変える必要はありません。
頻度が高く、定型化しやすい一つの業務を選び、業務を分解し、AIと人間の役割を決め、効果を測定することが出発点です。
AIで減らすべきなのは、人ではありません。
これまで当たり前だと思って続けてきた、無駄な作業です。
その時間を社員の成長と会社の未来へ振り向けられるかどうかが、これからの中小企業の競争力を左右します。
「日々の経営・社会ニュースについての発信はこちら」として、伊藤 弘典|note

