導入
DXに取り組む企業は増えています。しかし、新しいシステムやクラウドサービスを導入したにもかかわらず、「期待したほど業務が減らない」「現場で使われない」「投資に見合う成果が出ない」という企業も少なくありません。
IPAの「DX動向2025」では、日本企業の約8割がDXに取り組んでいる一方、成果はコスト削減や効率化に偏り、売上や利益の増加など、成長につながる成果が相対的に弱いことが示されています。
DXの失敗原因は、技術の選び方だけではありません。多くの場合、経営、業務、組織、人材の準備不足にあります。
背景
人手不足、原材料価格の上昇、働き方の多様化、生成AIの普及などにより、中小企業にも仕事の仕組みを変える必要性が高まっています。
ところが、DXを「紙をデータにすること」「新しいシステムを入れること」と捉えてしまうと、本来の目的を見失います。
DXとは、データやデジタル技術を使い、顧客への提供価値、業務プロセス、組織、意思決定の方法まで変える経営改革です。システム導入は、そのための手段にすぎません。
DXに失敗する企業の7つの特徴
第一は、目的が曖昧なことです。「他社も導入しているから」「補助金が使えるから」という理由で始めると、成果を評価できません。
第二は、最初にツールを選ぶことです。本来は業務上の問題を整理し、その後に必要な機能を選ぶべきです。
第三は、経営者が担当者に任せきることです。部門を超えた業務変更や権限の見直しは、担当者だけでは進められません。
第四は、現状の業務をそのままデジタル化することです。無駄な承認や二重入力を残したままでは、非効率な仕事が電子化されるだけです。
第五は、現場への説明が不足していることです。目的やメリットが伝わらなければ、新しい仕組みは「仕事を増やすもの」と受け止められます。
第六は、成果指標がないことです。導入件数ではなく、作業時間、ミス、顧客対応時間、利益率などを測る必要があります。
第七は、社内に知識を残さないことです。外部業者に任せきると、改善や修正のたびに費用と時間がかかります。
中小企業や経営者への影響
中小企業は人材や予算が限られているため、DXの失敗による影響が大きくなります。使われないシステムへの支払いが続くだけでなく、現場の不信感が強まり、次の改善活動にも協力を得にくくなるからです。
古いシステムと新しいサービスが併存すると、情報の分断や二重管理も起こります。経済産業省も、レガシーシステムへの対応には、経営層の意識改革、ITガバナンス、事業部門との連携、システムの可視化が必要だとしています。
経営コンサルタントとしての考察
私がDX支援で重視しているのは、システムより先に「どのような会社にしたいのか」を明確にすることです。
残業を減らしたいのか、利益率を高めたいのか、顧客対応を速くしたいのか、社長に集中している判断を社員へ移したいのか。目的によって、必要な業務改革も技術も異なります。
DXは情報システム部門の仕事ではなく、経営戦略の実行手段です。経営者が判断を避けたまま、担当者だけに推進させても、会社全体は変わりません。
企業が今後取り組むべきこと
最初に、経営課題と業務上の問題を整理します。次に、対象業務を一つに絞り、小さく試します。
導入前後で、作業時間、ミス、顧客満足、売上、利益などを比較し、効果が確認できたものを他部門へ広げます。同時に、社員への説明と教育を行い、社内に運用できる人材を育てることが重要です。
経済産業省のDX推進指標も、経営者と各部門が現状、目指す姿、必要な行動を話し合い、進捗を継続的に確認するための自己診断を重視しています。
まとめ
DXに失敗する会社は、技術が遅れているのではありません。目的、業務、組織、評価方法を変えないまま、ツールだけを導入しているのです。
DXで最初に変えるべきものは、システムではなく、経営者の意思決定と会社の仕事の進め方です。小さく始め、効果を測り、社員と改善を続けることが、成果につながるDXの第一歩になります。
「日々の経営・社会ニュースについての発信はこちら」として、伊藤 弘典|note

