資金繰りの問題は突然起こるわけではない
「売上はあるのに、月末の支払いが苦しい」
中小企業の経営相談では、このような悩みが少なくありません。
資金が不足すると、多くの経営者は融資や追加借入を考えます。もちろん、事業を継続するために資金調達が必要な場面はあります。しかし、資金繰りが悪化した原因を確認しないまま借入だけを増やすと、数カ月後に同じ問題が起こる可能性があります。
資金繰り改善で重要なのは、資金を増やすことと同時に、現金が減る原因を取り除くことです。
コスト上昇で現金が残りにくくなっている
現在の中小企業は、原材料費、人件費、物流費、光熱費など、さまざまなコスト上昇に直面しています。
日本政策金融公庫の2026年5月の中小企業景況調査では、資金繰りDIが前月から低下しました。すべての企業の資金繰りが悪化しているわけではありませんが、売上が維持できていても、支出の増加によって資金余力を失う企業には注意が必要です。
また、売上が増えるほど資金繰りが苦しくなることもあります。仕入れや人件費を先に支払い、売上代金が入るのは数カ月後という取引では、成長のための運転資金が必要になるからです。
問題の本質は「お金の流れが見えていないこと」
資金繰りが苦しい会社には、次のような傾向があります。
・預金残高だけで経営を判断している
・売掛金の回収予定を把握していない
・利益と現金を同じものだと考えている
・赤字の商品や取引先を放置している
・借入金の返済予定を一覧化していない
・会社と経営者個人のお金が混在している
・納税や賞与の支払いを資金計画に入れていない
決算書で利益が出ていても、売掛金や在庫が増えていれば、手元の現金は増えません。
利益は経営成績を示す数字ですが、支払いに使えるのは現金です。資金繰りを改善するには、この違いを理解する必要があります。
資金繰り悪化が経営に与える影響
資金不足が続くと、経営者は目先の支払いに追われます。
その結果、本来取り組むべき営業改善、商品開発、人材育成、業務の標準化が後回しになります。仕入先への支払いを遅らせれば信用を失い、給与の遅れが発生すれば社員の不安や離職につながります。
資金繰りは財務部門だけの問題ではありません。会社全体の信用と将来性に関わる経営課題です。
経営コンサルタントとして考える改善の順番
資金繰りを立て直す際は、次の7項目を順番に確認します。
1.資金繰り表を作成する
最低でも6カ月、できれば12カ月先までの入金と支払いを月別に整理します。資金不足が発生する時期と金額が分かれば、対策を前倒しできます。
2.売掛金を早く回収する
請求漏れや入金遅延を確認し、請求書の早期発行、前受金、着手金、支払条件の短縮を検討します。
3.不要な支出を止める
固定費を一律に削るのではなく、売上や顧客価値につながっていない支出を特定します。
4.在庫と遊休資産を現金化する
長期間動いていない在庫、使用していない設備、不要な保険や契約などを見直します。
5.赤字取引を改善する
売上額だけでなく、商品別・顧客別の粗利益を確認します。値上げ、仕様変更、最低発注量の設定なども必要です。
6.借入返済の条件を確認する
返済負担が重い場合は、資金が尽きる前に金融機関へ相談します。返済条件の変更には、資金繰り表と改善計画を用意することが重要です。
7.必要な資金を適切に調達する
原因を整理したうえで、金融機関、日本政策金融公庫、信用保証協会などへの相談を進めます。融資は問題の先送りではなく、改善に必要な時間を確保するために活用すべきです。
早めの相談が会社の選択肢を増やす
資金繰り対策は、現金がなくなってから始めるものではありません。
中小企業庁には、専門家と資金計画やアクションプランを策定する早期経営改善計画策定支援があります。通常枠では、計画策定支援費用の3分の2、上限50万円などの支援が設けられています。
資金に余裕があるうちに相談すれば、融資、条件変更、事業改善、資産売却など、複数の選択肢を比較できます。
まとめ
資金繰りが苦しいとき、借入を検討すること自体は間違いではありません。
ただし、借入の前に、なぜ現金が減っているのかを明らかにする必要があります。
資金繰り表を作り、回収条件、支出、在庫、利益率、借入返済を見直す。そこから必要な資金を計算し、金融機関や専門家へ早めに相談する。
資金繰り改善とは、お金を集めることだけではありません。会社に現金が残る経営の仕組みをつくることなのです。
「日々の経営・社会ニュースについての発信はこちら」として、伊藤 弘典|note

